2015年2月13日金曜日

冬期特別講座「環境宗教学入門」を開催しました

2月7、8日の2日間、東方学院松江校特別講座として、中村元記念館研究員の岡田真美子先生による講義「環境宗教学入門」を開催しました。

 
 1日目の講義は、循環型社会と水のお話。かつて「循環型社会」などという言葉がなかった頃、日本人は当たり前のように循環型社会を実現していました。やがて高度経済成長期を迎えそれまでの生活を捨てたことで、様々な環境問題が発生してきて初めて「循環型社会」という言葉が叫ばれるようになりました。

日本の循環型社会の歴史を語る上で、岡田先生は特に「水」をめぐる「縁」に注目します。古代から現代まで農業が生活の中心であった日本社会では、水利用に関する様々な場面で、人々のつながりが形成されていました。しかし上下水道の整備に伴い水利用が個人宅に閉じ込められたことで、水によって培われてきたつながりは希薄になり、自然への畏敬の念も失われていったのです。

 日本社会がどれほど水を大切にしてきたかの証として、岡田先生は「ため池」の重要性を強調します。例えば近畿地方に今も残る仁徳天皇陵のような大型古墳は、天皇の権威を示す目的で造られ、不可侵のため周囲に堀を設けたというのが一般的な説明ですが、実はこの堀こそ天皇が民のために造らせた巨大なため池であり、古墳は工事の残土処理と、ため池を保護する中の島の役割を果たしているという興味深い説を述べます。

 そして最後に、ため池によって多くの人々が救われた現代の事例を紹介しました。淡路島の北淡町・一宮町は阪神淡路大震災の震源に近く被害甚大だったが、震災当日のうちに行方不明者がゼロになったという驚くべき記録があり、これは長年のため池管理の伝統が、地域住民の危機管理意識を育んできたことが要因になっていたのです。

 現在、農業人口の減少により日本各地でため池が消失していますが、岡田先生はその地域の中でため池がどのような役割を果たしてきたのかを、十分に調査・検討した上で埋め立てるべきだと警鐘を鳴らします。



 2日目の講義は、輪廻転生・因縁果といった仏教思想の影響を受け、日本人が築き上げてきた独自の自然観が、循環型社会を目指す我々現代人の道しるべになるというお話。

 「草木国土悉皆成仏(草木も国土も皆安らかに成仏しますように)」という言葉に表れているように、かつての日本人は山川や国土に対し、人間や他の生き物と同様にいのちがあり、安らかに成仏すべき存在であるという、深い慈悲の眼差しを向けてきました。


私たちの多くは、コンクリート掘削のために抉られた山や、赤潮で真っ赤に染まった琵琶湖を見て、「痛々しい」と感じるし、針供養に代表されるような、器物のためにお葬式まであげてしまう文化があります。使えなくなった器物を供養することで、新たな生命としてまた生まれてくる、この思考が、かつての循環型社会の基盤になっていたと岡田先生は説きます。


 人間も動物も山川草木国土も、同じいのちの循環の中に生きている。その声なき声に耳を傾け、理解するわざを磨こう、という言葉で、2日間の講義は締めくくられました。

(研究員A.N)


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【講座2】「ジャイナ教―どう仏教と異なるのか」
 <講師> 矢島 道彦 氏(駒澤大学客員教授)
 <日時> 3月7日(土)13:30~16:50、3月8日(日)10:30~14:30

【講座3】「アビダルマ概説」
 <講師> 三友 健容 氏(立正大学教授)
 <日時> 3月28日(土)13:30~16:50、3月29日(日)10:30~14:30